陳氏太極拳協会双月会

〜「老子」「道教」について〜

前回10月の寄稿文に「儒教」を取り上げた関係で「道教の事も知りたい」というお声を頂きました。

確かに、太極拳は老荘思想との関わりが深く、太極拳をする者としてその老子を取り上げない訳にはいかないのかもしれません。

という事で今回の寄稿文は「老子」と「道教」についてまとめてみる事といたしました。

先に記しておきますが私は老子の研究者でも宗教家でもありません。
今回記しているのは一般的に言われている事。または個人の知識程度に留めておいて頂きたいと思います。

一般に老子(ろうし)という人物は
生没年不詳で実在したかどうかも定かではありません。
中国古代の道家(どうか)思想の開祖とされ、時代としては紀元前5世紀頃の人物とされています。

先に老子は実在したかどうかも定かではない。と書きましたが、実は「史記」の中に「老子」では?と思われる人物が登場しています。
それが、「老耼」(ろうたん)です。

老耼は春秋時代に楚(そ)の苦(こ)県(河南省鹿邑(ろくゆう)県)に生まれ、周の王室の守蔵室の吏(り)(図書役人)をしていました。やがて周の衰退をみて世間から離れてひっそりと暮らす事を決意し、牛に乗って旅立ます。
ところが途中の関所で関守の役人に「教えを書き残して欲しい」と頼まれ、書いた書物(上下2編の5,000字ほどの書)それが「道徳経」後に「老子」と呼ばれるようになったとされています。

「老子」と聞くと「TAO」という言葉を連想する方も多い事でしょう。
「TAO」とは「道」である。と言われますが、私は今一つピンときません。

ちなみに前回の寄稿文で紹介した孔子も「道」について説いていますが、老子の道(TAO)とは全く違うものです。

老子の説く「道」は人間の感覚では捉えられない感覚を超えた実在の事、天地万物の存在よりも先にあったものと言われています。

太極拳をする者としてはコレを聞くと
「道」=「無極」
という事になるのか?と思ってしまいます。

「では、「無極」とは?」
と問われると言葉に窮してしまいます。
「有る」けど「無い」もの。「無いけど「感じる」もの。というところでしょうか…

「老子」では、「道」(TAO)に従って生きる事こそ理想。とされています。
それを端的に示した言葉が「無為自然」なのです。
それは無理にあるものを動かそうとするのでは無く、あるがまま、自然のままに任せる事を意味します。
「無為」とは何もしないことでは無く作為的な事をしない事。
「自然」とは四季や木や川のことでは無く「自ずから然り」(他から何の影響も受けない状態)の事。
つまりは「あるがままに受け入れる生き方」といったところでしょうか。
太極拳の口訣「捨己従人」が浮かびますよね。

その他にも老子は「小国寡民」(しょうこくかみん)を説いています。
これは老子が説いた理想郷の事です。住民の数が少ない小さな国家の事を言います。
それを思えば現代の社会は老子の考えからすると大きくなり過ぎている。また互いに影響を受け過ぎているのかもしれません。
その事からも老子の理想郷とはかけ離れたモノになってしまっているのかと思います。

けれどそれでも尚.老子の教えが現代に語り継がれているのは何故なのでしょう。
現代は、お互い影響を受けあっている社会の中にあっても精神世界の中では「無為自然」でありたい。と願う心が老子を求めているのではと思ったりするのです。

「道の道とすべきは常の道にあらず」
老子の有名な言葉です。

この様に老子の教えにはどこか牧歌的でわかりづらい面もありますが、現代人を惹きつけてやまない魅力があるのだと感じます。

また、「道教」とは
一般的には、老子の思想を根本とし、その上に不老長生を求める神仙術や、符籙(おふだを用いた呪術)・斎醮(亡魂の救済と災厄の除去)、仏教の影響を受けて作られた経典・儀礼など、時代の経過とともに様々な要素が積み重なった宗教とされると言われています。

今回道教については長くなりますのでご紹介に留めました。興味のある方はご自身でお調べいただきたいと思います。

最後になりますが、中国で「知っている」事を「知道」と書き「知らない」事は「不知道」と書く。というのも実に興味深いと思います。
日本においても色々な学び教えに「道」という文字をあてているのも歴史的背景を想像すると面白いですね。
こんな事からも人は皆自分の中の「道」(TAO)を探求して生きているのかもしれない。と思いました。

早いもので師走を迎えます。
今年も残りわずか…
今年2023年皆様には大変お世話になりました。
6月の交流発表会は「双月会」のチーム力を感じました。会員の皆が会を主催し、力となり、民主的に進めている。互いに尊重し合いアドバイスを求め、求められてもそこに対応出来る力と個々の人間力。団結力も感じた年でした。

来年もまた「双月会」の皆さんと楽しく太極拳の「道」を学んで行けます様に…。
来年もまた良い一年にであります様に願い今年の寄稿文を締めたいと思います。
お読みいただきありがとうございました。

「双月会」竹之内朋子